とりとめのないことをつらつらと

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ウマ娘に乗じてみどりのマキバオーを語る

ウマ娘滅茶苦茶話題になってますね!
正直競走馬を擬人化かつ女体化って相当ハードル高いのでは……近年の有名所は交渉失敗やら何やらで出せないみたいだしとアニメ始まるまで結構はらはらしながら見守っていたのですが(それでもサイゲの肝いりだし何とかするんだろうと謎の安心感はあった)、擬人化・女体化というある種のトンデモ世界観を活かしたコメディチックでありつつもだからこそのまっすぐな熱さが眩しい王道スポ根アニメに仕上がっていて、毎週楽しく見させてもらってます。
で、自分の周りでもそういったコンテンツの新規台頭の影響はやっぱり出ていて、リアルの競馬や競走馬もののフィクションが話題になることも増えてきました。その中でやっぱりちらちらと『この機会にもう一度読み返したい』と、ジャンプ発の擬人化競馬スポ根漫画、『みどりのマキバオー』の名前を聞く機会が出てきました。正直ものすごく嬉しい。

アラサーオタクBBAの例に漏れずそれなりに多くのジャンプ漫画に触れて育った自分ではありますが、『みどりのマキバオー』は一番好きなジャンプのスポーツ漫画、あるいは一番好きなジャンプ漫画を挙げろと言われたら、ほぼ真っ先に名前が出てくる作品の一つです。語るには絶好の機会!ということで、とりとめのない文章ではありますが、好きなところについて語ってみたいと思います。

※基本的にフィクションものについて、作者のインタビューや裏話、あとがきは基本的にあまり読まない人間なので、作者の思惑とは外れた推測や感想があるかもしれません。ご留意ください。

 

 

みどりのマキバオーとの出会いは、漫画ではなくてアニメでした。まだ幼かった自分はぼんやりテレビ画面を見ていただけで、「白いちみっちゃいなんかおマヌケな馬が、画面真っ黒にするぐらいでかくて黒くて渋い馬と延々と張り合ってるけどいまいち相手にされてないアニメ、でも最後にはなんか勝ってた」という印象で、マキバオーがその身体や運動能力を周囲に舐められ見下されながらも、僅かながら心ある理解者達の応援と、持ち前の諦めない根性で、その視線を跳ね飛ばし越えていく物語であると認識していました。
時が経って文庫版の発行を機に改めて原作漫画に手を出した時も、「主人公のマキバオーは周囲の理解を得るまでに物凄く苦労して、そのあかつきに鼻持ちならないあの黒いでかい馬を倒すんだろうな」と、内容を予想していました。

まあうんこたれ蔵くん物凄い認められてたんですけどね!!!!

まず度肝抜かれたのは実はこの部分だったりします。
確かに競走馬デビューするまでは本当にタマーキン(≠トニービン)産駒なのかやらロバやらカバやら散々な言われようではありましたが、いざ調教師の虎先生や主戦騎手の菅助くんと出会ってデビューを飾った後は、「あの馬体でちゃんと勝てるなんてこれは凄いやつなんじゃないか」と逆に注目と人気を集め、かつライバルとなるカスケードやアマゴワクチンニトロニクスサトミアマゾンといった『ちゃんとした馬体を持つシリアスな馬たち』も、観客達と同じく「この馬体で勝っているってことは何かあるんだろう」とむしろマキバオーを脅威として警戒してくるんですよね。
前評判が高くないレースも確かにあるんですが、それはあくまでも前レースのパフォーマンスの結果だったり、血統による距離適性だったり、相手が超一線級の実力者だったりと、ちゃんと一頭の結果を出した競走馬として認められた上での評価だったりする。
そしてそれは絶対的王者として描かれるライバル・カスケードに対しても、目線自体は同じだったりするわけです。みどりのマキバオーという作品を語るに欠かせないあのカスケードの引退レースである有馬記念、一番人気だった馬はマキバオーでもカスケードでもなく、古馬の実力者トゥーカッターだったんですよね。マキバオーやカスケードは菊花賞凱旋門の惨敗が響いて二人揃って人気を落としてしまっている。
そのトゥーカッターにしても同期のピーターIIがカスケードとのマッチレースで脚を壊して引退していなければ……と散々言われていて、それが本人のコンプレックスになっている訳で、リアルにお金がかかっている部分もあるせいか、案外作中の視線はライバルに対しても平等というか、シビアだったりします。
これが結構意外で心地良い。
主人公もライバルも、ある程度のレベルの結果を出している実力者として認識された上で、試合(レース)前の評価はあくまでも直近のパフォーマンスによって如何様にも上下している。結果を出せばどんなにあり得ない体躯の馬だろうが認められるし、結果を出さなければシリアスなイケメンホースでも終わったんじゃないかと囁かれる。そこに主人公補正もライバル補正もない。どこまでも平等です。
むしろ早々に戦線を離脱してしまったピーターIIのような存在のほうが、あいつならもしかしたらやってくれたかもしれないと持ち上げられてしまう。

それはライバル達の自己・他者認識に於いても例外がありません。

ライバルキャラクターとして非常に人気のあるカスケードですが、最終的な二つ名となる『帝王』の単語から受ける印象とは裏腹に、実はほぼ毎回結構ギリギリな勝ち方をしています。むしろ本人の超追い込み型の脚質と相まって、結構ちゃんと対戦相手に見せ場を作ってしまうというか、わりとがっつりピンチになってからの覚醒逆転勝ちというパターンが多いんですよね。
そしてその事態を本人自身本当にピンチだった、あそこで更に粘られていたら負けていたと素直に認識し反省してしまう性格なので、結果として主人公の絶対的なライバルという立ち位置のわりに、ほとんど……もとい全く嫌味のないキャラクターとして描かれている。これがかっこよくない訳がないんですよね。
前述したピーターIIとのデビュー前のマッチレースに於いて、カスケードはピーターIIに表面上は敗北したものの、ピーターIIの脚を壊し結果的に引退に追い込んでしまいました。
本多社長のイヤミな物言いも相まってあのマッチレースでカスケードはピーターIIに事実上勝利したと周囲には認識されますが、実はカスケード本人は本気であのマッチレースで決定的な一度目の挫折を味わっていて、ピーターIIに勝ち逃げされてしまったとすら思っています。そしてそれが彼にとって第二の敗北と挫折となるダービーでのチュウ兵衛の死と共に、決して拭えない傷としてその心に刻まれている。
無敗の王者として驕り高ぶるどころか、カスケードは自身の原点にまず敗北と挫折があることを自覚しています。そして挫折からのスタートを自覚しているからこそ、自らが勝ち取った勝利の重さに対してもひたすらに謙虚なので、結果として自身を王者であると認識し、倒すべき目標として向かってくるマキバオー始めライバルたちに対しては、決して自分の弱い部分を見せず、弱音を吐露することもしない。

キャラクターの語り方についても、イヤミに見えたあのライバルが実は……!と後になって事情を出してくるのではなく、ほぼ主人公のマキバオーと同じタイミングで、ストーリーの進行に沿って語られていきます。マキバオーが成長しているのと同じように、カスケードもまた思い悩み成長していく様子をリアルタイムに追っていくことになるので、読者としてはどちらにも半端ない思い入れを持つことになります。

そしてそれはカスケードだけでなく、アマゴワクチンサトミアマゾンといった第三、第四のライバルに関してもほとんど同様です。三冠の夢をあと一歩のところで逃してしまった兄の悲願を叶えるために、自らにとって『強敵』であるカスケードとマキバオーに挑むワクチン。故郷の船橋のレース場にお客さんを呼びたいがために『中央のエリートたち』に食らいつこうとするアマゾン。それぞれがそれぞれに、決して誰にも馬鹿にすることができない覚悟と理由を持ってレースへと赴きます。そしてその覚悟と理由を抱いているのが自分だけではなく、相手もそうであることを認識し、だからこそ力を抜かずに本気で激突するわけです。
過度に仲の良さを強調し馴れ合うこともなく、しかし他者の勝利への理由を馬鹿にすることもなく、純粋に相手を脅威に思い、その強さに敬意を払っているからこそ本気で戦う。物語に登場するメインどころのほとんどの馬がこの姿勢を崩さないので、どの馬も本当にかっこいいし、どの馬のことも応援できてしまうんですよね。皆根本的に人が好いというか。主人公のマキバオーも含めて。
このライバル同士の見事な距離感のバランスって、中々取れないような気もします。なんとなくイヤミな部分が解消されなかったり、ライバルというよりは徹頭徹尾噛ませのヒールとして描かれてしまったり、あるいはライバルというよりかは最早身内の馴れ合いになってしまったり(これはこれで身内同士だからこその遠慮のなさなどが描かれて面白かったりするんですけど)と、大抵どっかしらでバランス崩れてしまいがちというか。

実際アニメでは若干ファミリー向けにわかりやすく描写する必要があったせいでしょうか(っていうかチュウ兵衛が死なないので)、カスケードの原点としての挫折やワクチンの三冠への悲願よりも、両者ともにマキバオーの強敵としての描写に比重が割かれているようにも見えて若干物足りなかったのですよね。改めて見返してみると大分別物というか、若干わかりにくい部分をファミリー向けにわかりやすくしてしまうとこうなっちゃうのかな……というか。
というわけで個人的にはアニメも良いけどみどりのマキバオーに関しては原作読んでくれ!!!!な!!!!とかそんな感じで終わりにしたいと思います。

 

そして後日談にあたる「たいようのマキバオー」(W含む)も先日ヒイヒイ言いながらようやく読破できたので、感想書きたいなと思ってます。

みどりの延長線だからこそみどりのときにはあまり目を向けられなかった部分で抉られることが多く、みどりより間違いなく『しんどかった』漫画ではあるのですが、そのしんどかった部分が自分の琴線に見事に突き刺さったので、正直みどりより好みだった面もあります。やっぱり路線が違うのでみどり読んだらこれも!とは中々言いづらい面もありますが、とにかく語りたいことばかりなので何とか近いうちに!